森山佳郎監督率いるU-17日本代表が、ワールドカップの出場にて集中力を切らさず、中2日とタイトなスケジュールを乗り越え、見事アジアNo.1に輝いた。
初戦のウズベキスタン戦においては、若年層の強化が進んでいる相手に勝ち点1は大きいように見えるが、実際は試合をほぼコントロールしており、終盤に同点にされたことで引き分けになったため、勝ち点3があとわずかまで迫っていた上、中東ならではの猛暑によりタフな闘いを強いられた中で、次戦に切り替えることも苦しかったであろう。
チャンスが何度もあったのにも関わらず、2点目を奪えなかったことで特に攻撃陣は強い後悔を感じていることもあったと思う。
だが、そんな暗い雰囲気になっておかしくない展開を一掃したのは、森山佳郎監督の言葉であった。
「ネガティブになる必要はないぞ」
この言葉は、単に落ち込んで次の試合に影響しないようにするだけではなく、昨年からの成長が結果として現れたことを選手に伝えるために発した言葉でもある。
というのも、ウズベキスタンは実際に強く、昨年は0-3と完敗を喫した相手であるのである。
そんな相手に対し、デュエル勝率55.3%、空中戦58.3%、ポゼッション率51.1%、インターセプト数23-6と相手を上回っている数字が数多くあり、とても昨年完敗を喫した相手に残した数字とは言えないほどである。
そんな初戦からわずか中2日で迎えたベトナム戦では、ポジショニングのうまさからマークを外れた代表唯一のプロ選手である道脇豊に対し、絶妙なクロスを提供した佐藤龍之介のコンビで挙げた先制点に加え、初先発の望月耕平の2得点など計4得点を挙げ、ベトナムをシャットダウン。
そして、グループリーグ突破がかかったインド戦では、「全員で戦っていいムードを作り、ノックアウトステージへ向かうこと」を意識し、前節より先発メンバーを7名も変えてこの試合に挑んだ。
試合は川村楽人が決して楽ではない体制からの豪快なシュートで先制点を挙げ、名和田我空の2得点に加え、3-0と点差を広げ前半戦を終了したが、後半立ち上がりにバタバタした影響からかFKから失点を許してしまう。
その後は、乱打戦の始まりであり、取っては取り返される展開が続き猛暑できつい環境は最大限考慮しなければならないが、チームにまとまりを感じない試合となってしまった。
森山監督も、「前半は得点を3つ重ねて良い形で終了できましたが、後半はちょっとやることに統一感がなくなってしまって相手を元気付かせてしまいました。」と話している通り、簡単にスペースを作ってしまい、みんながまるで反射するかのようにボールマンに視線が向いているから、ボールを持っていない人へのケアが甘い印象を抱いた。
そのため、縦や横を広く使った攻撃に対し対応できず、ピッチ上で頭を抱える展開が多く見かけるようになった。
結果、大勝で1位通過を決めたが、試合展開から見て不安な印象を抱いたサポーターは多かったに違いない。
そんな中で迎えた日本vsオーストラリアの準々決勝戦。
ここまで一定の選手に出場時間を集中させるのではなく、多くの選手に出場時間を分け与え、世界進出に向けて一段に価値の高い準々決勝に向けて逆算して戦い抜いていた。
そして過去2度の世界進出決定戦を快勝してきた森山監督も「本当に簡単じゃない」と話すほどであり、偶発性の高いサッカーにおいての一発勝負は精神面的にも疲弊を感じていてもおかしくない。
ここまでケアしていても、タフな日程と気候が高いタイの環境から体調不良を訴える者も現れてしまったが、ここは豊富な選手層に加え、ここまでフィールドプレーヤー全員を出す采配により、どの選手も浮き足立つことなく試合に臨むことができていた。
オーストラリア戦は、今までの戦いとは一変して、ボール支配率が相手を下回っていたように(日本44%-オーストラリア56%)、日本がボールを保持できない時間帯が続いていたが、縦に効果的なパスを出すことで、相手守備陣の隙をついた攻撃は相手に脅威を与えていて、日本が主導権を握っているような試合展開だった。
まさに、前半23分に挙げた2点目がまさにその例である。
この試合は、どのゴールもゴールに向けて攻めたパスに加え、的確なポジショニングにより生まれたゴールであり、選手生命もかかる大一番において本当頭が下がらないほどの攻撃的な姿勢を大一番で見せてくれた。
だが、森山監督はもちろん選手のことを一番に褒めた上で、+αとして「もっとボールを保持する時間を増やして相手の足を止めるようなサッカーをしたい」と話していた。
そして、準決勝前にはすでに次の目標「アジア大会優勝」に目標が切り替えられたからこそ、イラン戦では雷による中断というハプニングがあったとしてもパフォーマンスを下げることなく90分間戦い抜いたのであろう。
堅守のイランに対し、前試合の課題であったボールを保持した試合展開を演出し、且つこの記事では取り上げていなかったものの、インドに4失点を喫したり、時折プレスが甘く、注意力が散漫になっているように見えた守備陣もこの試合は90分間通してプレスが効いており、相手攻撃陣を自由にさせることがなかった。
前半13分の土屋櫂大のスライディングでのシュートブロックや、前半20分の後藤亘のバックパスミスから失点を許さなかった決死のブロックは、意地でも失点をしてたまるかという今までの守備陣の悔しさと執念を垣間見得たシーンである。
最後は、佐藤の技ありFKによりイランの良い所をしっかり封じた上で、日本の素敵なところを幅広く見せてくれた90分間を我々に見せてくれた。
そして迎えた決勝戦で、中2日というタフな日程の中、集中力を切らすことなく次の目標に定めていた「アジア制覇」に向けてどの選手も戦う準備を示していた。
決してピッチコンディションが良いわけでなく、雨で芝生に水が含まれている状態のため、持ち味の個人技や攻めたパスも思った通りにいかず、決勝戦を戦うには消化不良のステージであった。
だがしかし、そんな中でも闘志に燃えた気持ちは決して消えることなく、ボールに喰らいつく姿勢は贔屓目なしで韓国を徐々に飲み込んでいっているように見えた。
ピッチコンディションが悪いならば、セットプレーで活路をと言わんばかり、前半終了間際に名和田が決めたFKはとても鮮やかにゴールネットを揺らし、数的優位に立った後のチャンスをものにできただけでもなく、観客を魅了するようなスーパーゴールで、スタジアム全体を日本の空気に持っていって見せた。
ピッチの水気も徐々に抜けてきた後半は、思いっきりの良い縦パスが相手の脅威となりだし、2点目の佐藤の縦パスから、望月の鮮やかなトラップ、その後のラストパスから名和田のゴールにより勝負あり。
準決勝で見せた隙を見せない守備陣には、数的不利の韓国相手には2点で充分であった。
日本は見事アジアカップを戦い抜き、日本国民に興奮を与えたのであった。
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