今月5日、アルビレックス新潟は伊藤涼太郎のシント=トロイデンVVへの完全移籍を発表した。
・伊藤涼太郎の経歴
伊藤は、作陽高校時代に浦和レッズの当時監督のミハイロ・ペドロヴィッチ監督からの高い評価を受け、卒業後に浦和レッズでプロキャリアをスタート。
だが、柏木陽介や遠藤航など数多のライバルに圧倒され出場機会を得ることができず、水戸ホーリーホックへレンタル移籍。
ここで同世代のプロ意識の高さに危機感を覚え、試合やピッチ街での意識を変えることで、キャリア3年目の2018年には34試合で9得点と初めてシーズン通して成績を残すことに成功した苦労人。 (関連記事:天才伊藤涼太郎を支える挫折の数々)
その後、大分トリニータ、浦和レッズ、水戸ホーリーホックへと渡り、2022年にアルビレックス新潟に完全移籍を果たし、42試合9得点という活躍でチームのJ2優勝に貢献。
そして、伊藤自身初めてのJ1となる2023シーズンでは、7得点4アシストという大活躍で月間MVPにも受賞するなど、国内サッカーファンに大きなインパクトを与えた男である。
・シント=トロイデンVVとは
シント=トロイデンVVは、ベルギー1部リーグに所属するチームであり、2022-23シーズンは12位という成績を残した。
1924年に創出されたクラブであり、最高順位が1965-66シーズンの2位とまだ優勝経験がないクラブである。
日本にとって非常にゆかりの深いクラブであり、2017年11月にDMMグループが、日本企業として初めて欧州クラブの経営権を取得したことでも有名である。
2015-2016年シーズンの小野裕二以来、日本人選手の所属はなかったが、DMMが経営権を取得したことで、2018-12019年シーズンから冨安健洋、遠藤航、鎌田大地ら日本人選手を6人獲得するなど、一気に日本人選手の所属人数が多くなり、今では多くの日本人選手を抱えるクラブとして、日本サッカーファンにも知れ渡っている。
・なぜシント=トロイデンVVは伊藤を獲得したのか?
そんなシント=トロイデンVVの攻撃陣は、33試合20ゴールの大活躍を見せたFWジャンニ・ブルーノに依存していた。
だが、ブルーノは元々KAAヘントから1年間のレンタル移籍により獲得していた選手であり、来シーズンもチームにいるという保証はできない。
そして、シント=トロイデンVVのトップ下は、そもそも人がいなかった。
前半戦は、クリスチャン・ブリュルスや香川真司が役割を担っていたが、どちらもシーズン途中での移籍により本職がトップ下の選手が不在になるという事態に陥ってしまった。
そのため、後半戦からはフォワードが本職の岡崎慎司が担い、不慣れなポジションで奮闘していたが、1ゴール3アシストと決して十分の成績を残したと言えず、37歳の大ベテランにポジションを任さずを得ないほど台所事情は苦しんでいた。
そんな岡崎も他の日本人所属選手と同様に、チームを退団することが濃厚であり、レンタル移籍先のオランダ2部で9ゴール11アシストと大活躍を果たしたジャーン・ステュッカーズが所属しているが21歳と若く、もう1人のトップ下であるマティアス・デロージも19歳と、ポジション別に見ても極端に若い選手が集まっているポジションである。
このような事情から、年齢的に若すぎず、課題であった得点に絡む活躍に期待でき、且つブルーノが残留した際にパサーとしてもアシストが期待できるトップ下の選手として、伊藤に移籍の話が舞い込んでくるのは必然であろう。
そして、シント=トロイデンVVの新監督として、選手時代にバイエルン・ミュンヘンでUEFAチャンピオンズリーグ優勝に貢献し、ヴィッセル神戸の監督も務めた経験がある、トルステン・フィンク氏が就任。
複数のシステムを駆使しポゼッション重視で戦いを繰り広げる一方、相手によってはハイプレスを仕掛けるなどサッカー脳の高さが求められ、伊藤のさらなるレベルアップにはもってこいの監督である。
また、アルビレックス新潟とシント=トロインデンVVのパイプを繋ぐ意味としても、この遺跡は将来的にも価値のあるものであると考えれる。
新潟には、20歳ながら今シーズン15試合出場し、U-22日本代表にも飛び級で選ばれているMF三戸舜介や、同じく20歳で世代別代表に選ばれているFW小見洋太、そして来季から新潟ユースから5年ぶりのトップ昇格が発表され、世代別代表にも選ばれているMF石山青空と、若き至宝が次々と成長してきている。
そんな若手のステップアップを促進する海外移籍において、移籍先クラブと深い関係を築くことで、若手選手にとって見れば新潟というクラブの魅力がさらに高まり、少なからず本間至恩に続いて2シーズン連続で海外に選手を送り出しているというチームの姿勢に対して、若手選手たちは好感を示すだろう。
将来的には新潟に多くの若手有望株が加入し、チームの競争力も高まりさらに魅力的なチームになっていく期待という方針もあるのではないかと私は予想している。
そして、伊藤も同世代の選手に比べてはキャリアの歩みに遅れをとっている選手であり、これ以上足踏みをするわけにはいかないだろう。
まず、ベルギーリーグで実績を積むと同時に、プレミアリーグへ行くための労働許可証を取得するために必要なポイントを貯め、選択肢を広げた状態で将来的な欧州5大リーグでの活躍を期待したい。
以下は、伊藤が新潟公式サイトにて載せたコメントである。
「このたびシント=トロイデンに移籍することになりました。アルビレックス新潟に加入してから1年半の間、サポーターの皆さんからたくさんの愛情を注いでいただいたことに、心から感謝しています。これまで支えてくださった皆さんと共に、たくさんの嬉しい思い出も悲しい出来事も共有できたと振り返っています。特に昨シーズンは、J2優勝やJ1昇格という素晴らしい結果をつかみ、新潟全体で喜び合えたことが、本当に嬉しい瞬間でした。
過去の自分は、J1の舞台でなかなか活躍できずにいました。そんな自分を新潟は迎え入れてくれて、出場機会をいただけたからこそ、海外クラブからのオファーが現実のものとなったと、感謝してもしきれない気持ちです。「今季はタイトルを獲る」と言い続けたにもかかわらず、シーズン途中で移籍することを申し訳なく思う気持ちも強いのですが、この目標はチームメイトを信じて託して、海外で挑戦してきたいと思います。
初めての海外挑戦となりますが、自分の活躍を皆さんに届けられるように努力を続けていきますので、これからも伊藤涼太郎を応援していただけると嬉しいです。短い期間でしたが、たくさんの拍手とご声援をいただき、本当にありがとうございました。(原文ママ)」
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